地球の平和を守るため、今日も戦うエコ戦隊ナビレンジャー vs 地球温暖化をすすめ、自分を苦しめようと画策するエム会
地球を巡る戦いが、今、幕を開ける

序章:会長と副会長の365日奮闘記。


「やっぱりな、会長である俺はレッドが良かったと思うのだが、駄目だったのだろうか

 九月某日、木曜日のことだった。新生徒会の発足後の初集いの日、バ会長もとい、生徒会長はそう言った。容姿端麗、頭脳明晰である会長は今や、この学校でも有名で注目の的である。いろいろな意味で。

 五月上旬。日付は覚えていない。
 それは休憩時間に起こった。見たことのない先生が突然俺を呼び止めたことから始まる。 あぁ、そうだ。自己紹介を忘れていた。俺の名前は、櫻井直斗。当時は高校一年生で真新しい気持ちでまだ学校に行っていたころだった。とは言っても、この学校はエスカレーター式で中学校から高校は大半が持ち上がるので顔なじみばかりなのだが。
 変わったことといえば、中等部の校舎から高等部の校舎に移り変わることと、制服が変わることくらいだ。制服だって高いのに、わざわざ買わされるのだから、堪ったものではない。とまぁ、余談が過ぎた。
 そうそう、あの時の話だったよな。それは確か、まだ慣れていない高等部の校舎を移動教室のため、移動していた時だった。

「えっと……。一年二組の櫻井ってお前か」

 白の清潔感のあるシャツに、きっちり黒でまとめたスーツにネクタイ、歳は三十過ぎだろうか。すらっとした長身で、男の俺が見ても格好良いと思うその先生は人伝えに聞いた、という言い回しで問うた。
 その頃はまだ猫を被っていたし、そもそも見たことのない先生、しかもイケメンときた。当たり障りのない返事で答えると、放課後にちょっと時間をくれ、とのことだった。
 特に悪いことをした記憶もない俺は、何事かと思い、不安な一日を送る羽目になった。

「お前、生徒会入らないか。できれば副会長で」
「……はい?」

 突然の誘いに困惑した俺のことを読み取ったのか、その先生は頭をぽりぽりと掻きながら面倒そうに話を続ける。

「いや、まぁ高等部も中等部と一緒なんだが、生徒会の引継ぎが九月にある。それまでに新生徒会長と副会長、書記長を決めないといけないのだが、生徒会長と書記長は二年。副会長は一年と相場が決まっている。で、生徒会長は去年生徒会にいた奴がやりたい、と立候補したのだが、そいつが少し問題ありでな。現生徒会メンバーが誰もやりたがらないときた。そこで誰か推薦しろ、と言ったらお前の名前が出てきたというわけだ。お前、中等部で生徒会でも入っていたのか?」

 そんなものに入っていた記憶は毛頭無いのだが。
 なんで俺を推薦したのか。しかもどこのだれが推薦などしたのか。少し思案してみせるが、心当たりなど全くない。

「いえ、別に入っていませんでしたが。その生徒会長立候補さんとやらの問題って何ですか」

 誰もが嫌がるその人物とやらにある意味興味を持って聞いただけなのだが、どうも先生の顔が芳しくない。何かまずいことでも聞いたのだろうか。誰だって勧められたからには情報は欲しい。

「一言で言うと、性格破綻だな。変わった性格、とでも言っておこうか」

 性格破綻ってなんなんだ。そんな奴、立候補した時点で断れば良いものを。という俺の思いを表情から読み取ったのか、先生はこう付け加えた。

「まぁ、推薦などだったら却下すれば良かったんだが、そいつの場合、一年の初期から生徒会に入っているし、何より立候補と来た。中々に却下する理由が見当たらなくてな。とりあえず他に誰も立候補者がいなかったんでやらせてみることにした」

 一年の頃から生徒会に入っているのなら、生徒会としての知識はあるだろう。それに性格に難ありといっても、生徒会に入っている以上、不良などではないだろうし、何よりも内申点欲しさに俺はその話をその場で承諾した。その後、この先生は生徒会顧問だということが発覚する。
 今思うと、この時点でその性格破綻者をどんな人物か見に行っていれば、絶対に俺は生徒会に入っていなかっただろう。


 六月上旬。これも日付は覚えていない。
 生徒会選挙も無事に終わり、見事当選を果たした俺とその生徒会長、そして書記長の初の顔合わせがあった。

「初めまして。新しい生徒会長となりました、秋庭彼方です。よろしく」

 爽やかな笑顔で挨拶をしたその人は、顧問が言うほど変わった人間には感じず、ど変人を想像していた俺は、少し残念なような、ほっとしたような、複雑な思いを抱いた。
 その後、会長と幼馴染だという書記長の先輩とも挨拶をしてその日は終わりだった。
 九月某日、木曜日。そしてその生徒会長の化けの皮が剥がれた。


「初めまして。この度、皆様のご支援のもと、新しい生徒会長となりました、秋庭彼方です。いろいろと思慮の足らないこともあると思いますが、これから新しい生徒会でこの高等部をより良いものにしたいと思うので、みんなよろしく。 あ、ちなみに俺、レッドだから。困ったことあったら何でもこのレッドである俺様に言ってくれて構わないよ。じゃぁ、次に仲間たちを紹介していこう。まず副会長。彼は、まだ決めかねているのだが、ブルーかイエローかどちらかにしようと思っている。櫻井直斗くんだ。パッと見はイエローかな、と思っているのだが、如何せん、レッドの相棒はブルーと相場が決まっているから悩みどころなんだよな。それで次に」

 そこまで早口でまくし立てあげた彼は、生徒会顧問である伊織先生に強制退場させられた。
 もう少し詳しく言うならば、一つのげんこつと共に。
 そして俺は、先ほどの会長の謎の発言に頭が完全にショートしていた。レッドやらなんやらとはアレか。昔よく見ていた何たらレンジャーとかいう話か。
 それにしても奴は何だ。自分をレッドとか宣ったか。高校生にもなって、しかも二年生にもなって戦隊ものに夢見ているということか。そして、俺は悟った。
 これが性格に難ありと言われる所以か。

 そんな俺は、戦隊ものだとか、漫画だとか、アニメだとかはあまり見ない方なので、そんな知識など無いに等しい。
 なので、俺の紹介時にブルーだとかイエローだとか散々悩んでいたが、正直どうでも良い。というか、分からない。本当に、心底どうでも良い。
 先ほどの会長の謎の発言に完璧に戸惑ってしまった司会の先生が、慌てて代理で俺を壇上に上がらせる。このタイミングで上がらせるか。
 まだ先ほどの発言でざわついている会場に、どうしたら良いものかと思案しながら壇上に上がっていると、密かに聞こえる会場の声。「あれがさっきの……」「あぁ、イエローくん」「ブルーじゃなかったっけ」「それにしても高校生で戦隊ものとかちょっと痛くない?」「あはは、それ言える」俺だって好きで言われているわけではない。
 むしろ、たった今聞いたこの発言をどうしろと。俺にそのノリでいけというのか。
 ……ふざけるなよ。あの会長、あとで絞めてやる。
 こうして、会長のみならず俺もまた学校で不名誉な形で一躍有名人となったのである。


 ここまでが、俺と会長との奮闘記始まりの話。出会いは良好。本性最悪。こうして俺は今後の、このバ会長の子守を任されることとなったのである。